ART DROPS 結成にあたって

私たちはこれまで4回にわたり「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」を開催してきました。静岡県の中央を流れる大井川、川に沿って走る鉄道の無人駅、そこから広がる集落がアートの舞台です。土地の力と人の営みの温かさを大事にしながら、参加アーティストと集落の人々やサポーターとの融合の先で生まれる地域の新しい姿を探し続けるための場所が芸術祭です。

無人と呼ばれる場に生きる人々は、近所との温かな関係性を維持し、昔ながらの豊かな生活を送っています。一方で、担い手が少しずつ減り、効率化やスピード重視の現代社会からは明らかに置いてけぼり。お荷物的な場所とも言い換えられるかもしれません。そのような地域の姿が、芸術祭をきっかけとし、表現され、発見され、地域の人々とアーティストとに生まれる強固な信頼関係を目にしました。そこには、多様で対等な新しい関係性が見えてきます。

「UNMANNED無人駅の芸術祭/大井川」を「ハレの日」と捉えるならば、社会がますます均質化していく中、日常の「ケ」の部分にこそ、これまでの芸術祭から生まれたもの達が染み出すような持続的な動きが地域に必要なのではないかと考えます。

日常は、不確かだけれどたくましく続くもの。そこに、「曖昧であり続けること」を目的とするような、境界をわけない集まりを「地域コレクティブ」と定義し、多様な形で地域に寄り添い続けるコトを起こしていきたいと考えます。

ARTDROPSとは、雫の集まりの意。1粒の雫は誰かの喉の渇きを癒し、草木に命を与え、川の流れの一部になっていきます。メンバーが1粒の雫として、複数体として、たまりになったり小川になったり形を変えながら静かなうねりを作っていくことで持続的な地域の関わりしろを作っていきます。メンバーはアーティストにとどまらず、地域に関心のある人、集落の住民など多様な層を想定。課題を持つ側も解決する側も、場合によっては立場が逆転し、補い合い、関わり合い、関係性が変化し続けていくことを目指します。

地域コレクティブ「ARTDROPS」は、芸術祭という祭りから日常へ染み出していきます。それにより、今までの埋もれた歴史が見いだされ、隠された地域を掘り起こし、既存の地図を見直すことが可能になると信じています。この現代社会において、「曖昧であり続ける」ということの1つの価値と挑戦をこの取り組みで示していきたいと考えます。 2021年夏、静岡県島田市にて「地域コレクティブ ARTDROPS」を結成いたします。

NPO法人クロスメディアしまだ
大石歩真・兒玉絵美